経理データの4段階分類表:仕訳・給与・マイナンバー・未公表決算をどのLLMに渡せるか

経理データの4段階分類表:仕訳・給与・マイナンバー・未公表決算をどのLLMに渡せるか

「このデータ、AIに入れていいの?」を毎回悩まないために。経理・財務のデータを4段階に分け、一般向けサービス・法人契約(学習利用なし)・ローカルLLMのどれなら使えるかを一覧表で整理します。

この記事で分かること

  • 経理・財務部門が扱うデータを「公開・社内限定・機密・極秘(法規制対象)」の4段階に分ける考え方
  • 4段階それぞれで、一般向けのAIサービス、入力データを学習に使わない法人契約のサービス、社内で動かすローカルLLMのどれが使えるかの一覧表
  • 仕訳、給与、マイナンバー、未公表決算という代表的なデータの分類例と、判断に迷う境界事例の扱い方
  • Claude、ChatGPT、Gemini、Microsoft 365 Copilot、Azure OpenAI、Amazon Bedrock の法人契約で、入力データの学習利用・保持・処理地域がどう扱われているか(執筆時点の整理)

想定読者は、AIの利用ルールを決める立場にある経理・財務部門の管理職、情報システム部門の方、そしてCFOの皆さまです。

「このデータ、AIに入れていいの?」が毎回議論になっていませんか

生成AIを経理の仕事に使い始めると、最初にぶつかるのがこの質問です。請求書のPDFを読ませて仕訳案を作りたい。でも、取引先の名前や金額が入ったデータを外部のサービスに送ってよいのか。聞かれた情報システム部門も、その場で「ダメ」と言うしかない。結果として、誰も使えないか、誰かが個人のアカウントでこっそり使っているか、のどちらかになりがちです。

私たちも最初は「とりあえず禁止」から始めましたが、現場で「少しくらいなら」が積み重なり、何が入力されたのか把握できなくなりました。落ち着いたのは、データを段階に分けて先に決めてからです。都度判断をやめて、表で決める。この記事では、その表の作り方をご紹介します。

4段階の分類と、使ってよいLLMの一覧表

まず、データを機密性の低い順に4段階に分けます。多くの会社の情報セキュリティ規程にある「公開/社内限定/機密/極秘」の区分(ISO/IEC 27001 の情報の分類の考え方)と同じ構造です。すでに情報資産の分類規程があるなら、新しい区分を作らずその段階に当てはめてください。分類表が二重にあると、現場は必ず迷います。

段階定義経理・財務での例
1. 公開社外にすでに公表されている情報有価証券報告書、決算短信、公表済みのIR資料、会計基準や通達の本文
2. 社内限定社外秘だが、漏れても損害が限定的な業務情報経理規程、業務マニュアル、勘定科目表、取引先名や金額を含まない仕訳パターン
3. 機密漏れると取引先や自社に損害が及ぶ情報個別の仕訳データ、未公表の月次業績、予算、取引先の与信情報、契約書、監査法人への提出資料
4. 極秘(法規制対象)法律で取扱いが定められている情報、または公表前の重要事実マイナンバー、給与や人事評価などの個人データ、公表前の決算数値や業績予想の修正、進行中のM&A案件

次に、LLMの使い方を3種類に分けます。個人が契約する一般向けのAIサービス、企業として「入力データを学習に使わない」ことを条件に契約した法人契約のサービス、そして社内の機器だけで動かすローカルLLMです。この2つを掛け合わせたのが、次の一覧表です。

段階一般向けサービス(個人契約)法人契約(学習利用なし)ローカルLLM
1. 公開○○○
2. 社内限定△ 学習に使わない設定が確認できる場合のみ○○
3. 機密× 取引先名・金額をマスキングした場合のみ△○○
4. 極秘(法規制対象)×△ 原則不可。例外は個別承認○ アクセス制御と記録を前提に可

なぜ「学習に使わない契約」が分かれ目になるのか。個人情報保護法では、AIサービスに個人データを処理させることは、ベンダーが自社の目的に使わない限り「委託」として扱え、委託先を監督すれば本人の同意は不要です。ところがベンダーが入力データを自社モデルの学習に使うなら委託の範囲を超え、第三者提供として同意が必要になり得ます。処理が海外なら、外国にある第三者への提供の規律もかかります。「学習に使わない」「どこで処理するか」は、気分の問題ではなく法律上の線引きです。なお、マスキングは「匿名加工情報」とは別物で、元データと突き合わせれば復元できる仮名化にすぎません。マスキングしたから個人情報でなくなる、とは考えないでください。

代表的なサービスの法人契約では、データはどう扱われるか

どのサービスのどの契約が「学習に使わない法人契約」に当たるのか。経理の現場で候補に挙がる主なサービスについて、執筆時点(2026年11月)で各社が公表している内容を整理しました。契約時には必ず最新の規約と契約書で確認してください。

サービス個人契約(無料・個人プラン)法人契約・API保持期間・処理地域の目安
Claude(Anthropic)学習利用の可否を利用者が設定で選ぶ。設定次第で学習に使われるTeam・Enterprise・API は既定で学習に使わない入出力は不正利用監視のため一定期間(30日程度)保持ののち削除。保持ゼロ(ゼロデータリテンション)は Enterprise・API で個別契約。処理地域は契約で確認
ChatGPT(OpenAI)「モデルの改善に協力する」設定がオンだと学習に使われるBusiness・Enterprise・Edu・API は既定で学習に使わないAPI は不正利用監視のため最大30日程度保持し、条件を満たせば保持ゼロを選択可。ChatGPT Enterprise の会話は管理者が保持期間を設定できる。Enterprise・Edu・API は保存データの日本国内リージョンを選べる(推論処理の地域は別途確認)
Gemini(Google)無料の個人向けアプリは、アクティビティ設定がオンだと改善に使われる。API の無料枠も同様Google Workspace の法人アカウント、有料の API、Vertex AI(現 Gemini Enterprise Agent Platform)は学習に使わない有料 API でも不正利用監視のため一定期間ログを保持。保持ゼロは Vertex AI 側で設定。処理地域は Google Cloud のリージョン設定に従う
Microsoft 365 Copilot(Microsoft)個人向け Copilot は法人向けの保護の対象外法人向けは入力と出力を基盤モデルの学習に使わない。データは Microsoft 365 の契約上の保護の範囲内で扱われる対話履歴は利用者のメールボックス内に保存され、管理者が Purview の保持ポリシーで期間を設定する。保存先は日本を含む地域を選べる(追加契約あり)。処理の国内化は段階的に提供中で要確認
Azure OpenAI(Microsoft Foundry)個人契約なし(企業の開発者向け)学習に使わない。OpenAI 社にもデータは渡らない不正利用監視のため入出力を一定期間保存し、必要に応じて担当者が確認する。申請が通れば監視用の保存をなくせる(主に担当営業のいる企業向け)。処理地域は東日本など利用者がリージョンを選ぶ
Amazon Bedrock(AWS)個人契約なし(企業の開発者向け)学習に使わず、Anthropic など各モデル提供者にも既定では渡らない既定では入出力を保存しない(自動の不正利用検知のみで、人は閲覧しない)。東京リージョンあり。ただし複数リージョンにまたがる推論設定や、一部モデルの利用条件でデータが域外に出る場合があるため設定を確認

共通する構造は2つです。どのサービスも「法人契約と API は既定で学習に使わない」「個人契約は設定や無料枠の条件次第で学習に使われる」。そして学習に使わなくても、多くのサービスで「不正利用の監視のために数十日は保持され、担当者の目に触れる可能性がある」。保持ゼロが必要な段階4のデータは、保持をなくす個別契約か、ローカルLLMかの二択です。

代表的な4つのデータは、どの段階に入るか

経理でよく話題になる4つのデータを例に、分類の考え方を見ていきます。

仕訳データは「機密」、ただしパターン化すれば「社内限定」

仕訳には取引先名、金額、取引内容が含まれ、積み重なれば自社の取引の全体像が分かるため、段階3の「機密」が妥当です。一方、科目の組み合わせのパターンは、取引先名や金額を含まなければ段階2として扱えます。AIに仕訳の判断を学ばせるなら、このパターン化したデータが現実的な入口です。

給与データは「極秘」に寄せる

給与は個人情報保護法上の個人データです。給与そのものは要配慮個人情報ではありませんが、休職理由や傷病手当のような健康に関わる要配慮個人情報と同じ台帳に載っていることが多く、マイナンバーも付随しがちです。個人別の給与は段階4、部門別の人件費合計のような集計値は段階3と、粒度で分ける運用が実務的です。

マイナンバーは「LLMに入力しない」と決める

マイナンバーは、番号法で利用できる事務が限定され、目的外利用も再委託も厳しく制限されています。クラウドのAIサービスへの入力はこの両方に触れ得るため、議論の余地なく「入力しない」と決めるのが、むしろ現場を楽にします。マイナンバーを含む帳票を読ませる必要があるなら、読み取り前にその欄を除外する仕組みが必要です。

未公表の決算数値は「公表の瞬間まで極秘」

決算の内容や業績予想の修正は、金融商品取引法上の重要事実に該当し得る情報です。適時開示などで公表されるまでは社内でも知る人を限定すべきもので、外部のサービスに送った事実があるだけで情報管理の説明が難しくなります。覚えておきたいのは、分類が「時間で変わる」ことです。同じ数字が、公表前は段階4、公表後は段階1になります。分類表に「いつ格下げされるか」の列を持たせておくと迷いません。

運用は、仕組みより「入口」をそろえる

次は運用です。「入力を監視するシステムを入れなければ」と考えがちですが、金融機関のように厳格な統制が求められる業種でなければ、そこまでは必要ないと私たちは考えています。実務で効くのは、入口を3つにそろえることです。

  • 法人契約を1つ決め、個人アカウントの利用をやめる: 会社で契約したサービスに、社内のID基盤からのシングルサインオンでだけログインできるようにし、個人契約の業務利用は禁止と明文化します。プロキシやCASBをすでに運用しているなら、個人向けAIサービスのドメインを遮断するのが最も確実で、追加投資もほぼ不要です。
  • 段階4は「入力しない」か「ローカルLLM」のどちらかに決める: マイナンバーや公表前の決算数値は、そもそも入力しない運用が最も確実です。どうしてもAIで処理したい業務があれば、社内で動かすローカルLLMを使います。ただしローカルLLMも、置いただけで安全にはなりません。アクセス権を必要な人に限定する、誰が何を入力したか記録を残す、モデルの入手元を確認する、という基本はクラウドと同じです。
  • 表を1枚にして、年に1回見直す: 分類表と一覧表をA4一枚にまとめて配り、契約更新に合わせて年1回、各社の規約変更と境界事例の追記を反映します。法人契約の管理画面に利用ログがあれば、その確認も同じタイミングで十分です。

AIエージェントに業務を任せる段階になっても、使うサービスを法人契約かローカルLLMに限定しておけば、この分類表はそのまま使えます。

まとめ

「AIに入れてよいか」は、都度判断するものではなく、分類表で機械的に決めるものです。迷うケースだけ個別に判断し、その結果を表に追記していけば、運用は半年で安定します。御社では今、どのデータをAIに入れてよいか、誰が決めているでしょうか。「その場の判断」になっているなら、まずは4段階の表を1枚作るところから始めてみてください。

この記事の分類表・一覧表・契約の確認項目をまとめたひな型(Excel形式)をご用意しています。ご希望の方はお問い合わせからご連絡ください。

参考資料

  • 個人情報の保護に関する法律(委託、外国にある第三者への提供、安全管理措置)
  • 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」(2023年6月2日)
  • マイナンバー法(行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律)
  • 金融商品取引法第166条(重要事実と公表の定義)
  • 総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン」第1.2版(2026年3月31日公表)
  • ISO/IEC 27001:2022(情報の分類に関する管理策)
  • Anthropic、OpenAI、Google、Microsoft、AWS 各社の法人向けデータ取扱いに関する公式ページ・利用規約(執筆時点。契約時に最新版を確認)

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の会計処理・税務判断、法令の適用については専門家にご相談ください。制度の内容は執筆時点(2026年11月)の情報です。

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